2023年7月26日水曜日

宮崎駿の「君たちはどう生きるか」を見てきた。

君たちはどう生きるか : 映画評論・批評 - 映画.com
https://eiga.com/movie/98573/critic/
 宮崎駿の「君たちはどう生きるか」を見てきた。
 CMいっさいなしで、夏休み中なのに映画館は三分の一くらいの席しか埋まらず。ネットでの感想も、賛否両論。さて、どんなもんだろうという興味と怖さがあった。

 総評としては「いつもの宮崎駿より、脂が抜けて消化しやすいぶん、あまり響かない」という感じ。
 ただ、脂が抜けているおかげで、この映画は最初から最後までストーリーがブレずに、非常にわかりやすい。カリオストロやナウシカ、ラピュタのような初期作品に近いストレートさだった。
 以下、ネタバレ。

 主人公のマヒトは、ナウシカのクシャナ姫のような性格。目標が決まったら覚悟ガン決まりで脇見をせずに突撃し、その際に発生するすべての被害は頭に怪我をしようが片腕がもげようが必要なことと納得して実行する。
 そこらへんがクシャナ姫に似ているのだが、ファンタジーならともかく、現代劇でこういう英雄的なキャラはなじまない。実際、物語の中盤まで現代劇なので、周囲の人には英雄的なところが異常性と受け取られる。もっとも、この年頃の男の子ってこんなもんですよという範囲の異常性ではあるので、そんなにダメ出しされるわけではないのだが。

 そして中盤から相棒役のアオサギがマヒトを異世界に誘う。アオサギはクロトワのような皮肉をいいつつ主人公をサポートする宮崎アニメの常連キャラで、克己的な英雄で欲も薄いマヒトのかわりに、現世的な欲望をダダ漏れにして庶民的な感想を述べる役。しかし、アオサギはアオサギであり人間ではないので、クシャナ姫をサポートしたクロトワと違って金も出世も女も興味がない。結果、いろいろ活躍しているけれどクロトワのような愉快なキャラになり損なって、印象に残らなくなった。
 そうすると、相棒との対比で輝くはずのマヒトも、連鎖的にキャラが立たなくなる。アオサギだけでなく、マヒトの周囲にいるキャラクターのほぼ全員が、自分の欲望を見せない。自分は大人だからとマヒトを気遣う、普通の「良い大人」ばかり。おかげでマヒトの英雄性は印象に残らない。この映画がいまいち盛り上がらないのは、そのせいだろう。
 総評で「いつもの宮崎駿より、脂が抜けて消化しやすいぶん、あまり響かない」と書いたが、脂=欲望と考えて欲しい。老境の引退作まで欲望ギラギラな人間を描けというのは酷かもしれないが、ファンとしては宮崎駿の描く理想ではなく、欲望が見たかった。

 で、タイトルの「君たちはどう生きるか」という問題になる。映画の結論としては欲望(感情)を否定し、英雄のように理性で生きろという話になるわけです。でも、対比になる欲望(感情)を映画の中で見せないから、あまり理性が魅力的に見えない。それがこの映画の構造的な欠陥でしょう。

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